２０１２年は古事記が朝廷に献上されてから１３００年
と聞いた。元明天皇の和同４(７１１)年、稗田阿礼
(ひえだのあれ)が語った神々と歴代天皇の物語を、
太安万侶(おおのやすまろ)が筆録したものだ。後に完成
する「日本書紀」は、中国・朝鮮を意識した国史として
全文漢文なのに対して、古事記は漢字と万葉仮名併用と
いう、日本語表記の原型として書かれている。
国史編纂は曽我氏直属の船史(ふねのふひと)や白猪史
(しらいのふひと)に下命されるのが常で、稗田阿礼の
本名も船史恵(ふねのふひとえさか)と言った。船氏は百済系
渡来人の末である。
一方太安万侶は秦系多氏の末で、壬申の乱の功臣・多品冶
(おおのほんじ)の子。美濃国安八麿郡湯汁令(あのはちの
こおりゆのうながし)を管理する武将だった。
古事記は上中下３巻から成り、上巻は神々の物語。中巻は
神々と人の物語、下巻は歴代天皇の物語である。世界は
宇宙の根源神・天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)に
始まり、イザナギ・イザナミ２神が協力して日本列島を
つくった。男女神は平等で性は全面的に肯定されている。
イザナミが死んで冥界に隠れ、イザナギが後を追って
冥界を訪れ、腐乱したイザナミを見て現世に
引き返す物語は、古代ギリシャのオルフェウス神話に酷似
している。このあたりにアフガニスタン北部のアレキ
サンドリアやバクトリア王国など、シルクロードの匂いが
感じられる。
やがて海神スサノオが暴れてアマテラスが岩戸に
引きこもってしまう話へと続く。スサノオはアマテラス
の弟となっているが、もともとは出雲王朝の祖神だった
のかもしれない。大和朝廷初代・神武天皇が出雲王朝から
国譲りされて、神々も統合されたのだろう。
現在の天皇家初代・神武天皇は、ウガヤフキアエズ尊を
父に、海神豊玉彦の２女・玉依姫を母として生まれた。
実名は彦火火出見(ヒコホホデミ)。日向国から大和国
を目指して東征を開始する。神武軍は甕棺墳墓群の
北九州東部の部族連合を避けながら、豊後国宇佐、安芸国、
に７年、吉備国に３年滞在したとある。
やがて大来米(久米)を率いた日臣命(ひのおみのみこと)の
参戦もあって、瀬戸内を進軍。難波での緒戦に敗退した後、
熊野から八咫烏の導きによって大和国に入るのである。
３本足の八咫烏は、現在JFAのシンボルマークとしておなじみ
のキャラクターだ。
神話というのは、その民族の自然観・死生観・歴史観などを
担う集合無意識に属する重要なテーマである。そして日本神話
は欧米の聖書文明神話とはかなり異なっている。終戦後アメリカ
GHQは皇国史観の元凶として、意図的に神話の抹殺を試みている。
しかし縄文の昔から自然と共生してきた日本民族には、脈々と
神話世界が息づいている。たとえば坂東玉三郎と佐渡島の
音楽集団「鼓動」が共演した「アマテラス」。市川猿之助主演
のスーパー歌舞伎「ヤマトタケル」手塚治虫の(火の鳥ヤマト編」
３．１１海の荒霊が荒れ狂い、人も動植物も建物も押し流され、
東北地方大停電。アマテラスの岩戸隠れを想起させた。
中島みゆきの「泣かないでアマテラス」は、暗く沈んだ神々
世界で踊るアメノウズメのようだ。古代のイメージは
確実に現代に受け継がれている。
中島みゆき／泣かないでアマテラス
http://www.youtube.com/watch?v=Oy2jAITXlAQ
竹田恒泰／なぜ日本人は世界で一番人気があるのか?
http://www.youtube.com/watch?v=1iDJjIWBPVs