このところオリゲネス、ヒパチア、ユリアヌスに共通した
「新プラトン主義」という言葉が登場した。このへんで一応
解説を入れておいた方がいいかなと思う。まずは本家プラトン
について。
プラトンはBC427、アテネ生まれで本名はアリストクレス。
ソクラテスを敬愛していたが、アテネ市民の投票で彼が死刑に
処せられた事に衝撃をうけ、政治に絶望したという。そのせいか
人間の精神性を探究した著作が多い。プラトン思想の中核は
霊魂不滅説にある。永久不変の真の実在をイデアと名づけ、
イデアに憧れる魂の精神活動をエロスと名づけた。
「人間の霊魂は不滅である。ある時は終わっても(それを人々は
死と呼ぶが)いつかは再び生まれ変わり、決して滅びることは
ない。さて霊魂が不滅であり、すでに幾度も生まれ変わった
ものであり、そしてこの世のことも冥府のことも一切のことを
見てきたものであるならば、学んでいないことは何もない
はずである。したがって霊魂が徳に関しても他の事に関しても
かつて認識したことを想起しうるのは、なんら怪しむに
たりないのである。(想起)」
かなり大雑把に言えば、古代ギリシャからヘレニズムにかけての
思想と学問の中枢はソクラテスとプラトンであり、そのバリエー
ションが広がっていったと言えるだろう。学都アレキサンドリア
では、プラトンとヘルメス文書を軸にした古代エジプトの叡智が
融合した。これが新プラトン主義である。その中心人物は205年
エジプト生まれのプロティノス。彼はイデアを「一なるもの=
ト・ヘン」に置き換えた。
「万物はト・ヘン・から流出したヌース(叡智)の働きによるもの。
一者は流出によって何ら変化・増減することはない。人間は
一者への愛(エロス)によって一者へ回帰することが出来る」
と述べた。また、一者との合一体験(エクスタシス)はごく少数
の人間に起こる希なことで、自身は生涯に4度体験したと語って
いる。本来ならばこうした学問をベースキャンプにして、輪廻
転生から解脱へと意識を進化させていくのが人類の道筋なんだ
けど・・・
ト・ヘンは密教で言えば宇宙の普遍的真理・大日如来。神々の
合唱隊は諸如来や菩薩。エロスは悟りを求める心「菩提心」に
相当する。エジプト・ギリシャ、オリエントの古代世界に
おいては、表現こそ違え、示される真理は同じ構造を持ち、
精神世界における常識だった。これを異教だ邪教だオカルトだ
として抹殺しようとしたのがキリスト教。おかげで無知+暗愚
な罪悪感と恐怖が蔓延して現在に至るってわけ。